ホテルのドアを叩く女
キョンジュではまずホテルを探す。「目印として便利」ということで、漢字で表示があるホテルにする。料金を前払いして部屋に入る。値段は悪くない。まだカゼも治り切らない上に、若干腹の調子が悪いので、朝からほとんど食べていないが、寒いので何はともあれ入浴することにする。
体を洗っていると、激しくドアを叩く音がする。水漏れでもしているのだろうか？ 「ちょっと待って〜」とか言いながら石鹸を洗い流し、バスタオルを腰に巻いたまま部屋の外へ出る。宿帳を持った女がいる。チェックインはしたはずだが、この時間に風呂を使うと何かあるのだろうか？ 腰にタオルを巻いたままの格好ではまずいので、パンツをはき、Ｔシャツを着ながら宿帳に記入。情けない状態だ。
女は化粧が濃く、変な笑みを絶やさない。そして、宿帳を書くときの項目等は簡単な英語でやりとりもでき、日本語も少しできる。そして宿帳を記入し終わると、「カンコクノ、オンナノヒトハ、スキデスカ？」と聞いて来る。外交辞令で「ハイ」というと、彼女は今日、この部屋で一緒に「寝る」のだと言う。「そうか、ここは売春宿だったのか？」 確かにオンドル部屋には布団が2枚敷いてある。ツインルームに一人で泊るのはよくあることなので、気にはしていなかったのだが…
「私はそういうつもりはない。」と言って彼女を追い出そうとするが、彼女も「ワタシハ、キライデスカ？」とか言って粘る。その頃にはズボンも上着も着て、外出できる状態となる。幸いにも他の荷物もそれほど開いていないので、荷物をまとめて部屋を出る。金は払ってしまったが、こんな宿に泊ることはできない。フロントで、怒りながら英語で「売女がしつこいので部屋を出る。」と言うと、彼女が走って出て行った。フロントは曖昧な笑みで「アイム・ショーリー（sorryという意味だと思うが…）」と言う。しかし、彼女も出て行ったし、金も惜しいので「合鍵使って入ってこないだろうか？」「別の女を派遣しないだろうか？」とかいうことは考えずに、その場でユーターンし、「大胆にも」部屋に戻ることにする。
正直なところ、いきなりのできごとに、「下半身の迷い」が一切なかったとはいえないし、これが絶世の美女だったら（「もうほんの少しでもきれいな子だったら」と言ったほうがいいかもしれない）、私の「理性」が勝てたどうかは自信がない。だから、偉そうなことを言うのも難だが、そういう日本人が沢山いるのだろうか？
近くで韓国初の焼肉に挑戦する。しかし4時頃だったせいか、店は閑散としており、用意もなかったのか、焼肉はマトンである。不味くはないが、期待外れともいえる。
その晩は、布団が2枚敷かれたオンドル部屋で、多少の緊張感を持ちながらも、誰に添い寝されることもなく、一人で寂しく眠る。 |
この旅では、予備知識もなく、予約は一切せずに、気ままに移動したのだが、後になって見返してみると、結構危ない経験をしていたのかもしれない。
とはいえ、古都慶州は見どころが一杯で、再訪する価値のある街であることは疑いがない。 |
